あめみか

「雨はいつもわたしのみかた。」 … 思想・哲学・世迷言からイラストまで、多岐にわたってたいへんくつに綴っています。

痛みの記憶

痺れ

 ある朝ほんのすこしの違和感とともに目覚めると足がピリピリしびれていました。

 

 寝相がわるかったわけでもないのに(寝返りをうつときに目を覚まさなかったことはなく、無意識のうちに寝相をかえたことはないので、ながらくひとはみなそうだとおもっていたのですが、「朝起きたら頭と足がひっくりかえってた」とか「ベットから落ちた」という証言をあちらこちらで聞いて「あれっ?わたしふつうじゃない?」となりました)、長時間正座して立ち上がるときのように、それも両足。寝起きにでなおかつ両足がしびれるなんて、めずらしいこともあるんだねぇ、とおもいながら、いつものようにちょっとほっとけばおさまるでしょうとそのまま待機……

 おさまらない。なんで?

 

不安

 不快感と不安とで泣き出す。

 すぐに異常を察した母に担がれて、近くの診療所ではなく街の病院へバスにのって運ばれました。(母はそれを表情や言葉にはあまり出すことがなかったので、それほどとはおもっていなかったのですが、そうとうな心配性で、なにかあると深刻な物語に仕立ててしまう癖があって、本人曰く「サスペンスする」と形容していました。)

 

 診察室に担ぎ込まれるとわけもわからぬまに「いやいやっそれなら大丈夫。うちに帰ろう?」と抗議するする間もなく注射を打たれる段に。

 

注射と家族

 幼かった頃のわたしは大の注射嫌い。列に並んでいる間にもさんざんわめいて抵抗したあげく、予防接種を打たれているときには暴れ出し、針を折って腕に刺さったまま外に飛び出し田んぼのあぜ道へ逃避行を果たしたほど大きらい。

 

 母からして注射がきらいで、もどすほど苦しくてもお医者さんにはみてもらうまいというほど、わたしが注射をうけるときなんかは押さえつけながらも針が刺さるところを見ないように目をそむけ、テレビで注射のシーンがあると「いたたたたっ」「見せないで」「見ちゃったぁ」とつぶやいていたほどです。

 

 反対に父は「すっきりする」そうで、高血圧かなにかで血を採っていただけなくなるまでは、なんどか表彰されるほど献血をしていました。

 

注射針の筵

 それなのに1本。

 なんとか注射の刑を終えたぁ。

 

 と、足のしびれなんてとうに忘れていたところにすかさず2本目。

 

 お医者さんの左肩越し看護師さんが手にしているのが目に入る。

 それも後にも先にもあれほど太い注射器は見たことないというような代物。

 さすがにそれはわたし用ではないでしょ?

 次の方が入って来られたのかな?

 なんとか和ませようとする笑えないコントでしょ?

 という願いも通じず…

 あれはもう凶器。

 上から肩を押さえつけられて逃げ場なしっ!

 そして2本目。

 アンプル2本と注射器1本

 わめきすぎて痛かったのかどうか記憶がない。

 投与でなく採血だったとおもうのですが、そうとう血ぃ抜かれたけどなんとか切り抜けられたみたい。

 

(↑こんなもんじゃない!おとなになって子どもの参観日かなんかで学校に行って机を見たら「こんなに小さかったっけ?」という感覚と似た、自分がただ小さかったからそう見えたんだってことじゃぁない、あれは。あの注射の太さは。)

 

 とおもっていたらデジャヴのような3本目。

 

 ドラキュラ伯爵に首筋噛みつかれて血ぃ吸われて亡くなったひとのようにわたしもこれでおしまいだぁ。

 

 あぁ針が腕に刺さるぅぅぅ…というところで記憶が途絶え、そこから目覚めるまでの間の断片的な記憶をたどると、ベッドに寝かされて病室に入る右旋回。おそらくドアレーンを通過するときの振動でちょっと意識が戻ったのでしょう。このときの虫食い模様の白地にほっそい線の格子柄の入った天井(ジプトーン)。

 

回想

 その次の記憶が「もうこれは入院きまっちゃったんだぁ…」と察せられる3・4人部屋のなか。

 

ドラキュラに首筋を噛みつかれている女性 おそらく1本目の痩身の注射は採血ではなかったので麻酔だったのでしょう。

 3本目直前にスーッとブラックアウト。

 でもそのときにはまさかの極悪4本目が見えていまして、結局なん本打たれてどれほどの血ぃを抜かれたのか…。

 

 学校に通い出す前のことなので、4歳か5歳ごろだったとおもいます。

 あれだけの苦痛を受けたのに足のしびれは健在。

 あの恐怖はなんだったの?

 

 まぁそれでもあとは何日か安静にして寝ていれば治るんでしょ?

 寝るのはすきだし(幼い頃は)得意だった。

 母曰く、「生まれてから一度もお漏らししたことなく、ずーっと寝てたから、まぁ手がかからなかった。」だそうで、でも、あまりにも寝ていたせいか、喋りだしたのがだいぶ、だいぶ遅かったようで心配したようです。

 

永い一日

 不安はありましたけれど、それでももう終盤戦と気楽に考えていられたのも、そう長い間ではありませんでした。

 

クランク…インっ!

 朝に病院に入って意識を戻したのは、おそらくあれは3時すぎぐらい。1日が2時間ほどしかなかった今日のおわり。それはやってきました。

 悪夢再来。

 

白衣の…

 看護師さんが注射を持って入場。

 すぐに反応するわたし。

 看護師さん:「これは注射じゃないよぉ」。

 よく見ると針がついてない。

 いやいやっこれは油断させてからの針装着でしょ?

麦わら帽子をかぶり水色のフレームのサングラスをしている幼いこども …と疑いましたが腕すらつかまない。

 それでその針なし注射は点滴の管の途中についてる滴下速度をかえるあの(辺りだったとおもう)ところへ。

 ほんとに注射じゃなかったんだぁ~。それならもう何本でもどうぞ。思う存分やってください。

 

本領発揮?

 そして、点滴になにかわからない液体を注射?注入?…されてすぐに違和感。

 んっ?

 なにっ?

 かゆい…じゃなくて、いたいっ!

 痛い痛い痛いっ!

 点滴刺さってるところじゃなくて全身痛いっ!

 しかも、ながっ!

 なにこれ?

 だましたなぁ!

 まだ痛い!

 いつ引くの?

 なに?

 どうしたらいいの?

 まだ痛いって!

 

 いつ終わるともしれない激痛のなか、泣きながら眠ったのか気絶したのかわからないままに意識がなくなる…。

深い森の中に射す日差し

 

たたかいのおわ…り?

 目が覚めて朝。

 

 よくもまぁ1日であれだけ寝たり起きたり繰り返せるものだという、一週間が一日に凝縮されたような最低な締めくくりを迎えた短い昨日。やっぱり病室にいる現実の悪夢。

 

 一番の懸念が今日もやってきましたよ。

 針なし注射。

 一回こっきりじゃぁないんだっ。

 絶望。

 それはもう抵抗しましたよぉ…

 

 入院中の記憶はほぼ針なし注射の記憶しか残っていません。

 昼食後と就寝前に打たれた記憶がありますので、おそらく日に2回だったのだとおもいます。

 だいすきなおばあちゃんが夜つきそって一緒に寝てくれたことがありましたが、それでどうなるわけでもなく。

 痛いものは痛いっ!

 

油断禁物!だけど…

 どれぐらい入院していて、どれだけあの針なし注射をお見舞いされたのか…。

 

 たしかにあの朝、足がしびれて歩けなくなったことは覚えているのですが、入院中に足がしびれていたのかどうかは記憶がなく、原因不明で入院し、原因不明のまま退院しました。

 

 原因不明だったのに、あの耐え難い苦痛はなんだったの?

 ピリピリッでもキリキリッでもズバッでもない。

 くるよ、くるよ、くるよ。

 (時々、あれっ?今日はこない。と、油断させてからの……あぁやっぱり…)

 きた、きた、きた、きた、きたぁぁぁあああっ。

 ジワーッなのにグサッなグワァーーーッ。

 ずっと刺されているのに毎瞬あらたに刺されるような。継続するのに新鮮な痛み。ピークなままの痛み。

 注射が大っ嫌いなのに「その注射ならふつうの(針のある)注射にしてぇ」と、看護師さんに懇願させるような極悪非道の針なし注射。

 

 いまだに地べたに座ると、どんな座り方をしても5分ともたずに足がしびれてしまうのですが、退院して10年ほどは、きっとこの原因不明な病気の後遺症なのだとおもっていました。いまもそうなのかもしれませんけれど。

 

 注射嫌いも、そしておそらく注射好きであっても、針なし注射にご用心!

 でもそのときには他に手はなし!打つ手なし!

 だからそのときには覚悟を決めることしかできないのよ。

 大丈夫!死にはしない…おそらく。

 気をつけようがないけれど、ショック死に気をつけてね。幸運をお祈りします。

 

こちらもいかが?